福田 紀彦

川崎市長


インタビューシリーズ #3

川崎市長 福田紀彦氏:

川崎市民が出すプラスチックを全部川崎市内でリサイクルするといった仕組みを構築することが目標

 

ーー公害対策に力を入れている川崎市がどのように、環境先進都市として発展してきたのか教えてください。

今年は川崎市が政令指定都市になってからちょうど50年という節目の年です。その時のスローガンがなんと「青い空白い雲」なんです。「公害の街 川崎」にどうにか青い空と白い雲を取り戻そうという趣旨でしたが、これが選挙スローガンだったという事実は、今から考えるとかなり衝撃的ですよね。そしてそのスローガンに市民は期待し、市政が変わり、そこから公害防止条例などの環境対策に力が入っていきました。これは、ともすれば環境を犠牲にしてでも経済でどんどん日本をリードしていくという重厚長大な川崎から、環境も経済も両立する、に転換を図らなくてはいけないというタイミングだったわけです。

ですので、ある工場を追い出そうというようなことではなく、企業の皆さんにも厳しい基準やルールに基づいてやってくださいと要請し、市民にも理解を求め、行政のルールを整備していくというような道のりを歩んできました。そういう意味では、行政も市民も企業の皆さんも一緒になって環境都市川崎をつくってきたといえると思います。

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ーープラスチックごみ削減に向けた、川崎市の取組を教えてください。

かわさきプラスチック循環プロジェクト」といったものを今年から開始しました。これは、ペットボトルなどの使用済みの製品がいったん資源となり、また同じ製品として生まれ変わる「水平リサイクル」を市民の皆さんと一緒に実現しようという取り組みでして、川崎市民が出すプラスチックを全部川崎市内でリサイクルするといった仕組みを構築することが目標です。市民が利用したペットボトルを事業者、例えば今協力いただいているセブンイレブンやイトーヨーカドーといったところで回収し、それを川崎市内のリサイクル施設に届けて循環させ、それをまた飲料メーカーのところに納入するというサイクルを作り出そうということに取り組んでいるところです。

「ケミカルリサイクル(ペットボトルを化学的に分解して原料として再利用)」「マテリアルリサイクル(ペットボトルをプラスチック製品の原料として再利用)」両方が可能な都市というのは、今、日本全国で川崎市だけです。川崎市は、市民が使うペットボトル量の7倍、普通の容器包装プラスチック量の14倍のリサイクル処理能力を携えているので、川崎市民のプラスチックのみならず首都圏の全体をカバーできることになります。

プラスチックリサイクルの循環については川崎市、飲料メーカー、回収事業者、市民の皆さんで積極的に進めていきたいと思っています。事業者のパートナーをどんどんこれから増やしていきたいです。ただプラスチックを本当にゼロにするのはなかなか難しいので、いかにバージンプラスチックを使わずにリサイクルさせていくかが鍵となります。

こういう取り組みはまだ本当に始まったばかりですので、UNEPとも協力しつつ、この循環の輪がさらに広がっていくことを期待しています。

ーー川崎市を事例として、途上国における循環経済を中心とした社会構築に対しアドバイスをいただけないでしょうか?         

技術だけの移転だけではなく、廃棄物の適正な管理、さらには大気も水もトータルでやっていく必要があります。そのためには住民の皆さんの合意形成や管理ノウハウといったソフトの部分も大切です。そこの国や文化に合ったやり方でなければ地域に根付かないし世界には広がらないと思うのです。ですのでそういった点で、UNEPさんにつないでいただいたご縁は、各国の状況に応じた必要なものを川崎市が提供できる、コラボレーションできるという機会につながっているのではないでしょうか。例えばJICAとともに携わっている、インドネシアのバンドン市の取り組みなどからは学ぶことが多いですね。

実は川崎市は大気だけなく、ごみの問題でも非常に苦しい時期を経験してきました。32年前の1990年に「もうこれ以上はごみは受け入れられません」というゴミ非常事態宣言を出したわけです。そこからリサイクルをしっかり行い分別を徹底しごみを減量するために市民の皆さんと一緒に取り組んできた結果、2017年からもう3年連続で、大都市の中では最も一人当たりのごみ排出量が少ない都市になったという実績があります。

これはすごく地道な努力の結果なのですが、やはり行政だけの力では絶対に達成できませんでした。市民の皆さんの理解協力はもちろん、地域の廃棄物減量指導員の方々が実に細やかにごみを分別しましょうと言ってくださる等の協力があってのことです。こういう取り組みをベースに、途上国の皆さんにもその地域の文化に合った形で適用できるものを提供できたらと考えています。

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ーー廃棄物管理、サーキュラーエコノミー(循環経済)、カーボンニュートラルは実は全てつながっていると考えています。川崎市さんの過去数十年からの学びを踏まえ、30年後、今後に向けたという中で一緒にUNEPと取り組めそうなアイデアがあればぜひお聞かせください。

過去からの学び、進歩という意味では、多摩川の変わりようについて、途上国の方に川崎市を訪問いただいて大変驚かれます。私が生まれた50年ほど前はもう本当に多摩川が汚れていまして、洗剤の泡が川でふわっと飛ぶような状態でした。今、本当にアユが戻ってきていると伝えると、これが同じ川かとびっくりされます。さらには多摩川の美化活動として、もう2万人近い市民の皆さんが一斉に多摩川の河川敷でごみ拾いをしてくださっています。これは、行動が文化になった顕著な例ですね。

そういう意味で各国や地域の課題は、それこそ危機ですから、スピード感を持った対応が求められるのは当然のことです。その一方、やらされ感ではなくて自分ごとだと捉えられることが重要で、ナッジ(行動科学の知見の活用により、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法)のような取り組みがこれからますます必要になるのではないかと考えています。

環境問題というと、得てして人任せになりがちです。気候変動という課題は壮大で、自分が今日車に乗るのをやめたからといって解決するわけではないため、皆さん一人ひとりが自分ごとにする意識を持つことが難しいと思います。そのような中、市として日頃一生懸命伝えているメッセージ以上にインパクトがあったのは、3年前の台風被害です。どんなきれいな言葉よりもインパクトがあって、多摩川が荒れ、もしかすると自分たちも水没するのだという気候危機を肌身で感じる機会になったと思います。風水害が毎年繰り返され、異常が通常になりつつある今、気候危機が言葉よりもはるかに危機感を持たせていると思います。

世界各都市で取り組みが進んでいるカーボンニュートラルですが、私自身、例えばイギリスのある都市の市長の取り組みに刺激を受け、政府レベルではなくて都市レベルで実際にアクションを取ろうとしているということに学びを得ようとしています。そういう意味で、UNEPはじめ、ノン・ステート・アクター(政府から指示や援助を受けずに活動する組織や個人)の活躍と、彼らとの連携が重要だと考えています。専門的知見と現実的な適用方法という意味では、ノウハウ、技術、製品を他都市に、とりわけ途上国など需要の高い地域に、適切な手段で届ける仕組みが欠かせません。そういう意味で川崎市もぜひUNEPの活動に協力させていただければと考えています。