廃棄物管理においてジェンダーが重要である理由
世界人口は2022年11月には80億人に達すると予測され、資源の利用が増大するのに伴って、世界の廃棄物も増加しています。2025年には、世界中の都市から毎年22億トンの廃棄物が排出されると見積もられており、これは2009年の3倍以上の量になります。
一方、世界の電気電子機器廃棄物(E-waste)の排出量は、現在の傾向が続けば、2050年までに年間1億2,000万トンに達する勢いです。
ずさんな廃棄物管理は人類の健康と地球の自然を脅かします。世界の人為的な温室効果ガス(GHG)排出量の約3.2%が、廃棄物および廃水処理に由来するものです。適正な廃棄物管理の実施は、世界中の国々や都市にとって依然として大きな課題となっています。
専門家たちは、ジェンダーの不平等と廃棄物管理の関係を認識することが、より持続可能で公平な廃棄物管理システムを形成するための鍵になると述べています。
10月14日のInternational E-Waste Day(国際E-wasteデー) を前に、国連環境計画 国際環境技術センター(UNEP-IETC)ヘッドの中村武洋氏が、廃棄物管理におけるジェンダー不平等の課題についてインタビューに答えました。→英語版はこちらから
廃棄物管理におけるジェンダーの不平等とはどのようなものですか?
中村武洋(以下、中村):廃棄物管理分野における性別に基づく分業は、日常生活における男性と女性の役割という伝統的な固定観念を反映するものであり、他の色々な分野や日常にも存在するため、気づかれないことが多いのです。
これは、『ジェンダーと廃棄物の関係:ブータン、モンゴル、ネパールの事例より』(2019年)でも明らかにされており、廃棄物管理におけるジェンダー不平等が社会全体のジェンダー不平等をより拡大し、正当化さえしていると指摘されています。廃棄物分野におけるジェンダー不平等に取組むには、啓発キャンペーンや研修、性別・ジェンダー別に分類されたデータの収集や調査などを通じて、ジェンダー規範に対する考え方を変えていくことが極めて重要です。
廃棄物は女性にどのような影響を与えるのでしょうか。
中村:多くの社会で、女性は家事の一環として伝統的に家庭ごみの管理を担っており、家庭ごみ管理や廃棄物管理サービスとより深いかかわりがあります。
インフォーマルな廃棄物管理の現場では、女性は主にごみ拾いや埋立地での分別作業など、下層の労働に従事しています。一方、トラックの運転手やスクラップディーラー、修理店、リサイクル可能な資源の購入・再販売事業者など、より収入が高い仕事や意思決定を下す地位は、男性が大半を占めていることが多くあります。これもまた、社会における男女の役割分業を反映しています。また、インフォーマルな廃棄物管理活動が制度化されると、女性はしばしば働き手から排除され、社会保障やより高い賃金などの恩恵を受けられなくなる可能性も高まります。
廃棄物セクターが近代化され、より多くの教育・訓練を必要とする新技術が適用されるようになってきている中、このプロセスに女性が参加することが不可欠です。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、廃棄物セクターの女性にどのような影響を及ぼしましたか?
中村:多くの発展途上国では、廃棄物管理は主にインフォーマルな活動であり、賃金は低く、労働者の健康被害に対する保護もありません。特に、使用済みのマスクや手袋などの感染症対策が必要とされるものが不適正な方法で捨てられていた場合、ごみ拾いに従事する人は非常に高い感染リスクにさらされます。
新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、医療従事者と一般市民の両方において、個人用防護具(PPE)の使用とその廃棄が大幅に増加しました。そのため、インフォーマルな廃棄物セクターで働く女性が危険にさらされています。それだけではなく、女性は家事の一環として家庭ごみを管理していることが多く、情報不足により医療廃棄物が一般ごみと分別されることがほとんどないため、女性は家庭でも危険にさらされています。
廃棄物管理改善の担い手として、女性にはどのような機会があるでしょうか?
中村:女性は、家庭内でのごみの管理だけでなく、廃棄物管理サービスを頻繁に利用し、また、職としても廃棄物管理の分野において様々な仕事に従事していることから、知識と専門性の両方を有しています。このことが正しく認識されれば、より効率的、効果的かつ持続可能、そして公正な廃棄物管理の実現へとつながるでしょう。
女性が即座にリーダーシップを発揮できる分野の1つに、家庭ごみの減量化と分別がありますが、男性も家庭ごみの管理に参加し、より大きな、そして最終的には平等な責任を担う必要があります。そうすることで、家庭ごみの削減とリサイクルやコンポスト化を通じて、廃棄物全体を減らすことにつながります。
また、廃棄物管理において女性が発言し、リーダーシップや主体性を発揮できるように促し、支援していくことも不可欠です。
廃棄物管理システムで働く女性が、現在、そして将来にわたって力を発揮し、エンパワメントされるようにするために、UNEPはどのような取り組みを行っていますか?
中村:UNEPは、ファクトシートや報告書、ビデオの作成や、研修、ウェビナー、その他のイベントの開催などを通じて、ジェンダーと廃棄物のテーマに関する取りまとめや科学的研究の主導的な役割を果たしています。
UNEPの報告書『ジェンダーと廃棄物の関係:ブータン、モンゴル、ネパールの事例より』(2019年)及びそれに続くビデオシリーズ『ジェンダーと廃棄物(ごみ)の関係』においては、廃棄物管理のほぼ全ての側面にジェンダー不平等やジェンダー規範がどのように組み込まれているかを詳細に分析し、ジェンダー課題に対応した廃棄物管理セクターを形成するための政策提言を行っています。
さらに、大阪市にある国連環境計画 国際環境技術センター(UNEP-IETC)では、医療系廃棄物・E-waste・プラスチック廃棄物に焦点を当てた、簡潔でわかりやすい一連のファクトシートを作成しており、近々一般に公開予定です。
より詳しい情報については、中村武洋(takehiro.nakamura@un.org)までお問い合わせください。
ジェンダーと廃棄物に関する資料
レポート: ‘Gender and waste nexus: Experiences from Bhutan, Mongolia and Nepal’
ビデオシリーズ ‘Gender and Waste Nexus’ ( 日本語、英語、モンゴル語、ネパール語、ゾンカ語)
UNEPは、汚染が社会全体に及ぼす影響への対策を実施するため、大気・土壌・水質汚染に対する迅速かつ大規模で協調的な行動のための戦略である#BeatPollutionを立ち上げました。このキャンペーンは、汚染が気候変動、自然および生物多様性の喪失、人間の健康に及ぼす影響に焦点をあてるものです。科学的根拠に基づくメッセージの発信を通じて、汚染のない地球への移行が将来の世代にとっていかに重要であるかを紹介しています。
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